スペシャルインタビュー

──『トワイライト』って、澤部くんがスカートとして一貫してやって来た音楽を、さらにいろんな人や出来事の手を借りてアップデートさせた作品だと思うんです。映画のテーマ曲や他のアーティストへの提供曲のセルフカヴァーがいくつか含まれているという意味でもあるし、新しくベーシストでバンドに参加した岩崎なおみさん(Controversial Spark)、ゲストで参加してる山崎ゆかりさん(空気公団)、Achicoさん(Ropes)、矢部浩志さん(MUSEMENT / Controversial Spark / ex.カーネーション)、村上基くん(在日ファンク)、ゴンドウトモヒコさんなど、いろいろな人たちとの出会いもこれまで以上に効果的に反映されてます。出会いの運と瞬間がきちんと作品に定着されていったことをこれまで以上に感じるんです。

澤部 それはちょっとあるかもしれないですね。やっぱりスカートがバンドっぽくなってきたことも関係してるかも。

──『20/20』をメジャー・デビュー作品として2年前に出して、そこからいろんな経験をしてきた。そのなかで「バンド」であることはもうしっかりと土台になっていった。だからこそ次は何をやるかということになったときにいままでとおなじ方法じゃないことを考えたのかなと。映画やテレビからどんどん依頼が来て、それに応えていった時間でもありますよね。

澤部 それもあって、自分のなかでの「内向き」と「外向き」が混在してるアルバムという気はしてるんです。「外向き」の要素があるのは、そういう依頼や要望に応えてきたことの自信の表れで、だからこそ「内向き」の曲も作れたという感じかな。

──M1の「あの子が暮らす街(まであとどのくらい?)」も、もともとは提供曲(NeggicoのKaedeソロ・シングルとして2017年9月にリリース)ですよね。これは今回のアルバムのなかでもかなり早くにできていた曲ですけど、ある意味「内向き」と「外向き」が共存してる感覚をいちばん象徴してる曲にも思えます。自分で自分を先読みしていたというか。

澤部 そうですね。結果的にそうなりました。

──頼まれて書いた曲だけど、じつは自分のことを言っていたというね。

澤部 1曲目にするつもりは最初はなかったんです。LP的に例えていうとA面の終わりかB面の終わりくらいのつもりでいました。むしろM5の「遠い春」のあたりかM10「トワイライト」の場所あたりがいいかと。でも全曲が出揃ったときに「これが1曲目というのはすごくいいな」と思ったんですよね。これを1曲目にすると、うまい具合にアルバムが一周する感じがあったんです。

──もともとのオファーが来たときは、曲の内容までは指定はなかったんですよね?

澤部 なかったです。ただ「明るい曲か暗い曲にしてほしい」とだけは言われたんですよね。

──そりゃまた極端ですね。

澤部 明暗のどちらかに触れる曲をということで、だったら暗いほうが大得意なんで(笑)。だけど、いろいろ曲のスケッチを作ってる段階でちょっと煮詰まっちゃったんで「歌詞から書こう」と。それで15分くらいでばーっと歌詞を書き上げてみたら、作ってたスケッチのなかの1曲のAメロに歌い出しの歌詞がハマったんで、そこをきっかけにして全体を作り上げました。なのでほぼ「詞先」ですね。

──「暗い曲」といいつつ、歌詞は希望を見てますよね。言葉のマインドとしては書かれた時期が近かった「視界良好」ともちょっと似ているのかな。

澤部 そうですね。置かれた状況だけちょっと違います。

──それって、この『トワイライト』というアルバム全体にある空気感ですよね。相反する感情とか異なる気持ちがひとつの場面や情景で切り取られてる。それをポップに切り取るソングライターとしての澤部渡の一貫性と成熟の両方を感じるんですよ。なので、このインタビューは全曲解説というか、1曲ずつ話をしていきたいんです。すでに澤部くんのセルフライナーもありますけど、もっと一緒に深掘りしたり、曲の成り立ちの世界をうろうろしてみたい。というわけで、M2「ずっとつづく」に進みます。

澤部 これはM1とは逆で、アルバムのための最後の作曲期間で書いた曲ですね。そのころ、アコギを新しく買ったんで、弦をジャガジャガ気持ちよくかき鳴らす曲をやろうと思って。僕のなかではわりとシンプルで力強い感じの曲になったから、歌詞も力強いのを書かなきゃと思って苦労しました。

──この曲でスチールギターを弾いているのが矢部さん。というか、矢部さんはドラマーですけど、この抜擢は慧眼ですよね。

澤部 プレイヤーとしての矢部さんの歌心を信じ切ってオファーしました。あのドラム叩いて、あの曲書ける人なんだから絶対大丈夫だろ、と。

──いわゆるテクニシャン・タイプとは違う質のプレイで、キラキラしながらふわっとしたレイヤーが曲の景色に色をつけてくれてます。フレーズの指定もしてないと聞きました。

澤部 そうなんです。「こういうアプローチにしてほしい」とも言ってません。下手に言わないほうが絶対にいいと思ってるので。もしかしたら矢部さんも戸惑いがあったかもしれないんですけど、わりとすぐに「できました」ってメールをくれましたね。

──メロディではなくアレンジで歌とデュエットしてるようなスチールでした。

澤部 そうそうそうそう! 歌との関係性をしっかり拾ってくれた感じです。コードに対してのフレーズではなく、歌とかメロディに対して何を添えるかというのをしっかり考えてくれたんだなと。

──それを指定なしでやるっていうのは、その人を信頼してないとできないことですよね。

澤部 そうですね。何のためにその人を呼んでるのか、ってことなんです。よっぽど自分でも決まってるフレーズとかがあれば「そう弾いてほしい」って指定はしますけどね。でも、何か色気を出したくてお願いする、っていうのはしないようにしてます。

──じっさい、スカートというバンド・メンバーに対してもその方法論は一貫してますからね。澤部くんがそういう考え方の人なんだっていうのが、この曲の矢部さんのスチールではすごくわかりやすく提示されています。次はM3「君がいるなら」。これは映画『そらのレストラン』の主題歌です。

澤部 映画とのコラボとして作ったのはこの曲が最初なんですけど、ちょっと時系列が難しくて。このあとに作った「遠い春」が主題歌の『高崎グラフィティ。』のほうが映画の公開は早かったんです(『高崎グラフィティ。』は2018年8月公開。『そらのレストラン』は2019年1月公開)。でも、次のアルバムという意識も、この映画のオファーあたりから本格的に始まった気がします。

──この曲ができたから、次のアルバムの絵図が見えてきた、みたいな。

澤部 それはどちらかというと、挿入歌の「花束にかえて」のほうなんです。あの曲がいちばん暗い曲のように聴こえるアルバムを作ろうと思ったんです。そこに目がけてアルバムがいいかたちになるといいなと。去年の年明けくらいでした。

──なるほど。「花束にかえて」の話はまたあとで聞きますが、約1年半くらい前にはアルバムのタネは撒かれていたということですね。あらためて聞きますけど、映画に提供する曲を作るという作業自体は、他とは違うところもありますか?

澤部 身も蓋もなく言うと、「こんな曲が書きたい」ってモチベーションは20代のころに比べると多少は少なくなってくるものなんですよ。そういうときに外部からの力がかかると非常に作りやすい、というのがひとつあります。

──まあ、でもそれは「私たちはスカートをこう見ていますよ」というイメージをきっかけとして与えてくれることでもありますよね。

澤部 そうです。そこは楽しみでもあるし、「こういうふうに見られているんだ。こういうものを求めているんだ」という確認にもなる。建設的な話として言えば、(作ることが)自分優先じゃなくなるんで幅が広がる良さというのはあります。『そらのレストラン』もラッシュ(完成前のプリント試写)も見て、台本も読ませていただいてたので、「メロディは絶対大きいほうがいい」とか「細かい譜割りはしないし、コード進行もそんなに難しくないようにしよう」とイメージするところから始められました。

──映画の場合も具体的な曲調や内容のリクエストはないんですか?

澤部 『そらのレストラン』では、そんなになかった気がします。ただ、最初にできたのが「花束にかえて」で、「すごくいいのができたんで、これをエンディングに使えたらうれしいです」って話をしたんですけど、「エンドロールが4分必要」って言われたんです。それでもう一回自分の作るべき曲を見つめ直して、「君がいるなら」ができたという感じです。

──なるほど。その尺の話は映画ならではですよね。テレビドラマだったらフルコーラス流れないのが普通だから全体の尺はあんまり関係ないけど。

澤部 「花束にかえて」は30秒足りなかったし、あの曲は尺を延ばせない曲なんですよ。「だったら4分の曲を書こう」と思って、ある意味、副産物的にできた曲が「君がいるなら」なんですけど、結果的にいえばこの曲のほうがしっかり映画を見て書けたので、そこはよかったです。

──結果として2曲とも映画のいい場面で使われましたしね。そしてM4「沈黙」。これまでのスカートにも「回想」「暗礁」とかがあって、スカートの漢字二文字の曲はファンキーになりがちという説が生まれそう(笑)

澤部 なぜか16ビートになるんです。完全にスティーヴィー・ワンダーの「迷信」「悪夢」「回想」路線ですよね(笑)。子供のころからあの感じがすごい好きなんで、「僕もやろう」と思ってるのかも。でも、今回この曲のタイトルが本当に決まんなくて! でも、あるときふと「沈黙」がいいなと思ったんです。歌詞の内容も含めて座りがよかったのがこれになったという。

──最初から漢字二文字にすると決めてたわけじゃなくて。

澤部 この曲、僕はすごく気に入ってて、じつは「遠い春」のシングル・リリースのときにもA面候補として出したくらいなんですよ。「最近シマダボーイがめちゃくちゃ元気な曲がない」と思ったんで、パーカッションが入る曲を作ろうと思って作ったものだし、シングルを意識して作ったんで、曲の構成もスカートとしてはちょっと珍しいくらい長いんですよ。サビが3回出てくるのも初めてじゃないかな。スカートって極端なことを言うと「気持ちいいメロディを1回しか歌わない」ってことをよしとしてきたので。とにかく「自分のなかでのシングルヒット」とまでは言いませんけど、それくらい気持ちのいい曲ができたかなと思ってます。

──スティーヴィーの二文字曲は全部ヒットしてますからね。いつかはスカートも二文字でヒットを出しましょう。そして、この「沈黙」を押しのけてシングルになったM5「遠い春」。さっきも話題に出ましたが、映画『高崎グラフィティ。』の主題歌でした。

澤部 これはもう(佐藤)優介のストリングスアレンジが最高ですね。最初のピチカートもめちゃくちゃいいし、アウトロでバンドがキメてる後ろで弦がそれをうまい具合に閉じたり開いたりしてる感じもすごい。

──じつは作曲とリリース時期が「君がいるなら」と逆だったという話を聞くまでは、この曲がアルバムの起点ではないかと思ってました。

澤部 これはシングル発売当時のインタビューでも言ってたかもしれないんですけど、自分の気持ちがソフトロックに向かっていた最初期の作品なんです。そのムードは今回のアルバムまで続いていたんですけどね。結局、純粋なソフトロックにはならないかなと思ったんで、メンバーには「フィラデルフィア・ソウルのバンドがフォークロックを演奏しているというイメージでお願いします」って僕が言って、全員の頭上に「?」が浮かぶという場面がありました。

──日本でいうところの「ソフトロック感」って「繊細」「緻密」に向かいがちで、うまくいかないとチマチマした感じになりやすいんですけど、この「遠い春」にしても「君がいるなら」にしても、曲のスケール感が大きめですよね。それってむしろ英語でいう「ソフトロック」の感覚に近いと僕は感じます。欧米ではロジャー・ニコルスやフリー・デザインではなく、ブレッドとかアメリカみたいなバンドの曲が「ソフトロック」という言葉に当てはめられるんですよね。

澤部 「パパパ~」って言ってなくちゃいけないとか、そういうことではない「ソフトロック感」のことですよね。この感じは、直枝(政広/カーネーション)さんにヤングブラッズのライヴ盤『Ride The Wind』を教えてもらったことが自分のなかでデカかったですね。音像的な話でいえば、あれとブロッサム・ディアリーの『Sings』が重なった感じもあった。ヤングブラッズってソフトロックじゃないんですか?

──ヤングブラッズってすごく特殊なバンドですよね。ソフトロックとはアメリカでもあんまり言われないですけど。でも、あの『Ride The Wind』って3人だけで演奏してて、すごくスカスカな演奏なんだけどグルーヴがあって歌もしっかりしてる不思議なふわふわ感がありますよね。緻密さではなくシンプルさで表現する「ソフトロック感」というか。

澤部 むちゃくちゃ腕が達者なわけでもないというのがまたいいし、ああいう(演奏面での)口数の少なさみたいなのにちょっと憧れました。あれと、キンクスの『Village Green Preservation Society』は、僕にはソフトロックだろうと思えるんですよね。

──一般的には「違う」って言われそうだけど、それって、すごくいい解釈ですよ。

澤部 そこを目指したいというのはアルバム制作の当初はありました。ゾンビーズがBBCでのライヴ盤(『Live At The BBC』)でシュープリームスをカヴァーしてるような、ああいう感じです。だけど、スカートではそうならなかった、って話でもあります(笑)

──アルバムの下地にはその残り香があると想像して、このインタビューを読んだ人がそのあたりの音源を聴いてみるのも面白いですね。そして、M6「高田馬場で乗り換えて」。

澤部 この曲が、アナログにするなら「B面1曲目」です。「B面も気持ちよく始めよう」って感じで録音しました。

──もともとDJ MARUKOME&スカート feat. tofubeats名義で発表された曲でした。tofu君とは去年の秋に京都のMUSEでツーマン・ライヴ「静かな夜がいい Vol.1」(2018年9月29日)がありましたけど、あれがきっかけでできたというわけではないですよね?

澤部 オファーはそれ以前にあって、ちょうどあの日にtofu君とは打ち合わせしました。

──この曲は、もともと高田馬場に東京本部のある食品メーカー、マルコメの企画でのリリースでしたけど、「高田馬場ありき」というオファーだったんですか?

澤部 いや、高田馬場というより「マルコメを連想させるタイトル」というオファーでした。マルコメの要素を含んだ内容というか。おなじテーマでオファーを受けたゆるふわギャングは「Kitchen」というタイトルでした。僕は「ひねくれ者としてやるべきことをやろう」と思って、高田馬場を題材にしたんです。西武新宿線の発車メロディって「マルコメマルコメ~♫」ですからね、「やっぱスカートはここだろ」と。「東京ローカルのバンドとして東京ローカルを歌わずしてどうする?」と思ってやりました。

──あらためてバンド・ヴァージョンとしてレコーディングし、コーラスも入って、なおよくなったなと思います。

澤部 うれしい! これ、いま話してた自分のなかでのソフトロック路線の重要曲なんですよ。コーラスを入れたいって話もずっとしてたんですけど、途中でいったん棚上げになってて、最終的に「明日のレコーディングでみんな集まれるんだったら、やってみようかな」という感じで声をかけてみたんです。

──Twitterでレコーディング当日に「今日来れる人!」って呼びかけてましたよね。

澤部 基本的には事前に呼びかけていた人たちに来てもらったんですけど、ガチであのツイートに反応して来てくれたのはマーライオンと、トーベヤンソンニューヨークの玉木(大地)くんでした。

──ハモりではなく、ああいう感じのユニゾンにしようというのは決めていたんですか?

澤部 そうです。やるなら何人かで同じメロディで。なんかそこでハーモニーとかをちゃんとしちゃうと太字の「ソフトロック」になっちゃうと思って。今回は、裏テーマで「現代ソフトロックの刷新」というのを掲げてましたから(笑)

──期せずして、あの雑味のあるコーラスが、高田馬場駅周辺にたむろする学生たちやサラリーマンたちのガヤガヤ感も活写してるようなムードがあるんですよ。馬場感あるコーラス(笑)。

澤部 そうかもしれないですね(笑)。あと、この曲は優介が本当に久しぶりに「いい曲ですね」って言いましたね(笑)。それがめちゃくちゃうれしかったです。自分でもすごくよくできたと思ってます。変なコードの感じもあるし、メロディの茶目っ気もあるし。かなり自信作ですね。これと「花束にかえて」が入ってるアルバムっていうのは個人的にはかなりいいと思います。なんてったって3分ない曲だっていうのもいいところです。理想の尺です(笑)

──では「B面」を続けます。M7「ハローと言いたい」。

澤部 ここから「花束にかえて」に向かって、だんだんとクライマックスに流れる感じになってます。じつは『そらのレストラン』で「花束にかえて」が流れるシーン用に最初に作ってたのはこの曲なんです。

──そうなんですか。

澤部 そのときに「花束にかえて」も作ってあって、結局「そっちをこのシーンに充てさせてもらいたいです」って制作サイドから言われたという流れでした。

──「スカートらしさ」はすごくありますよね。

澤部 曲としては「ハロー、ハロー」のあたりで4分の2拍子とかが入るのとかはめちゃくちゃよくできたと思います。アルバムのなかではいちばんスカートらしいというか、昔からスカートを好きで聴いてくれてる人には懐かしい感じもするだろうなあ。

──そして、M8「それぞれの悪路」。「悪路」って、なかなか曲のタイトルには使われない変わった言葉ですよね。

澤部 そうですね。でも、これは「それぞれの景色 それぞれの悪路を行く」って歌詞を書いた時点で、「これはいい言葉だな! なんて夢も希望もない言葉なんだろう」って思ってました。全部の歌詞を書き切ってみても結局その言葉にいちばん惹かれたので、タイトルにしました。

──この曲はバンドではなく、基本的に澤部くんの多重録音なんですよね。

澤部 (シマダ)ボーイと二人でやってますね。いちばん内向きの曲になるだろうなと思ったんで結構プライベートな感じを出したくて。あとは、ちゃんとしたデモを作らずに録音してみようと思ったんです。「即アウトプット」みたいな感じで、レコーディングの空き時間を3~40分もらってパッとギターを録って、それを聴きながら自分でドラムを叩きました。

──ある意味、デモ録りでやるようなことを本番の録音としてやってみた、みたいな?

澤部 そうです。ギターもあとで録り直そうと思ったんですけど、結局最初のテイクをそのまま使いました。ドラムも入れるか入れないかすら迷ってて、「とりあえずどこまで行けるかやってみよう」というのがこの曲のひとつのテーマでしたね。

──演奏を曲のほうに寄せて考えてみた、ということですよね。今回、ゲストが参加している曲があるのも曲にとっては必要な要素ですけど、この曲の場合は「そうしない」という縛りが逆に曲に近づく方法だったというか。

澤部 それが合うんじゃないかなと思ってやりました。

──さっきも言っていたヤングブラッズ感。「音を削ぎ落とした」というより「この3人しかいない」という感覚ですよね。

澤部 そうなんです。「引き算の美学」ではないんです。そういうふうでありたいという気持ちはどこかにありましたね。

──そして、アルバムのハイライトにしたいと当初から考えていたM9「花束にかえて」。

澤部 気持ち的には、この曲がラストシーンで、次のM10「トワイライト」がエンドロール、最後のM11「四月のばらの歌のこと」が後日談、みたいな。とにかく今回、僕はアルバム後半からラストまでの流れが好きすぎるというのはあります。

──すごく映画的ですね。その構成ができるっていうのは、やっぱり「花束にかえて」という曲に感じた手応え故ですよね。

澤部 今回のアルバムではいちばん「漫画的」な曲でもあります。間合い的な意味での「漫画感」。サビが終わって間奏に入ったところに情景が宿るような曲ができたなと思ったんです。これは本当にうまく書けましたね。

──揺れる気持ちを持って暮らしてる人たちの背中を押すというか、一緒に迷ったり、立ち止まって景色を眺めていたりすることの意味をないがしろにしてない。この曲そのものから、まさにそういう主張を感じます。

澤部 あくまで感情が揺れているというだけの描写というかね。本当にこの曲めちゃくちゃ好きなんですよ。さっきから自分の曲が好きってことばっかり言ってますけど(笑)。

──いいと思います(笑)。そして、いよいよエンドロールとしてのM10「トワイライト」へ。

澤部 アルバムでは、これがいちばん最後にできた曲なんです。曲ができなくてずっと困ってる状態でスタジオ入って、「さあ、どうしよう」となってたときに、佐久間(裕太)さんが「わかった、ちょっと俺たち30分くらい外に出るから。その間にAメロでもBメロでもいいからなんか作っといて。それをみんなで膨らまそうよ」って集中できる時間をくれて。そのときにこのサビができて、「あ、これはいける!」となって、そこからAメロ、Bメロもすんなりできていった。あんなに集中して曲を書いたことなかったかもしれない。いつもと違う集中の仕方をしたんでしょうね。

──よく30分でサビを作れましたよね。それができたっていうのは、やっぱりこの何年かの作曲経験というか、映画やドラマのオファーに応えていった積み重ねがあってこそだと思いますよ。その30分で「やっぱできなかった!」っていう場面のほうがむしろ普通にたくさんあるでしょ。

澤部 あの時間でこれができたことはすごく大きかったですよ。いままでスカートがやれてこなかった、リズムが揺れてる感じがやれたことも手応えだったし、だからアルバムのタイトル曲にもなったし。

──歌詞もその経緯につられて書けたような?

澤部 そうですね。歌詞はかなり悩んだんですけど、やっぱり漫画的な、一瞬の風景を切り取る感じにしなくちゃと考えたら、これができて。アルバムのタイトルにも「トワイライト」という言葉はすごく合うし、アート・ディレクターの森(敬太)さんが提案してくれたアイデアも発展していきましたし。最初は、過去の名作漫画をサンプリングするつもりでいたんですけど、森さんが「極端な例だけど、架空の漫画の一コマでもいいんじゃない?」って案を出してくれて、それってもともと架空のバンドだったスカートの出自にも通じるし、すごく僕のなかでハマったんですよ。スカートでは「一瞬の景色や感情を切り取る」ことをずっと音楽でやってるという気持ちがあるんです。いままで「架空の漫画の一コマ」みたいな曲を僕は作ってきたんだとあらためて思いましたね。

──それがジャケットでの鶴谷香央理さんの起用につながっていった。大正解ですよ。

澤部 漫画家の人に「漫画を描いてください」ってオファーを初めてしたんですよ。いままではそれはあえてせずにいたんですけど、今回それが全部整理されましたね。

──そういう意味でいうと、このアルバムもいままでスカートがやってきたことに筋をしっかり通したうえで、さらに次のレベルを切り開いた気がします。「トワイライト」という曲もそれを象徴してると思うので、ファンに愛されてほしいなと願ってます。

澤部 そうですね。本当にこれはすっごいよくできたと思います。

──そして、エンドロールのあとの後日談として、ラストのM11「四月のばらの歌のこと」。

澤部 これこそソフトロックという意識がいちばん出てる曲かな。セルフライナーにも書いたんですけど「短い曲を作りたい」という気持ちが湧いてきた時期に、「ずっとつづく」「トワイライト」とこの曲ができたんです。この曲では、短い曲なんだけど同じメロディの展開がない曲にしたかった。3回Aメロが出てくるんですけど、メロディの運び方は全部違うんですよ。間奏のメロディもそれぞれ違う。そういうことをやろうと思いました。シンプルに見えるんだけど、ちょっといびつなものにしたくて。

──漫画的にいうと、単行本のうしろのほうにあるこぼれ話の四コマ漫画みたいな余韻もありますね。

澤部 ああいう感じですね。ドラムのマイクの本数も最小限に留めたり、シンプルで味わい深いものを目指しました。こういう曲を書くための引き出しはもうすっかり出し切ったと思ってたんですよ。でも、「そこにまだこんなにたくさんものが入ってたんだ」って思えたのはかなりの収穫でした。自分のなかにある『菫画報』(小原愼司)感は「それぞれの悪路」や「四月のばらの歌のこと」に集約されたような気がします。

──「漫画を読んでウワーと思った気持ちから音楽を作りたい」と語っていたファーストの『エス・オー・エス』(2010年)からやってきたことが、スカートが映画やドラマから曲をオファーされるという立場になって、作品作りに関わる人も増えてヴァージョンアップして、ここで初めて大きな円環になった気もします。大団円とか、またイチからに戻るとかじゃないですけど。

澤部 メジャーでは2作目ですけど、ミニ・アルバムも数えれば、じつはもう通算7枚目ですからね。

──カクバリズムのアーティストとしては、かなりカタログが多いほうですよね。

澤部 そうなんです。やっぱり若いうちは苦労しとかないと(笑)。僕は自分ではYMOとかムーンライダーズとかスパークスとか、アルバムごとにスタイルが変わるアーティストが好きなんですけど、じゃあ自分もそうしようとは思えなかったし、まだ寄り道はしないでおこうという感じです。ありふれた楽器編成とありふれた言葉のざらつきをもっと突き詰めてやるべきだと『20/20』を出してからも思ったんでしょうね。

──ありふれているからこそ聴いた人に深く分け入ってもらえる余地が生まれるわけだし。

澤部 そうですね。まったくもってそう思います。スカートは何かの大きな波にはぜったい乗れないバンドなんで。乗りたいんですけどね(笑)。僕は、すべての事象の谷間の世代ですから。

──でも、乗れなかったことも運命だし、乗っていたらこうなってない。

澤部 やっぱり『エス・オー・エス』を出してから10年近く経って、いまだにこうして自分らしくやれてることが何よりありがたいですしね。

──これだけレベルの高いことを長くやってきて、いまなお「孤高」という感じの存在にもならず愛されてるのもいいところ。崎山蒼志くんやシンリズムくんみたいな10代、20代でスカートを自分の進む道の先輩として見ている人たちにとっても心強いことですよ。

澤部 やっぱりそこはポップ・ミュージック的でありたいと思います。

──もっと言うと、澤部くんは「ポップ・マエストロ」と呼ばれていた時期もありましたが、根本的なところでバンドマンだし、フォーク・シンガーなんですよね。

澤部 そう。そこはやっぱり、僕はイエママ(yes, mama ok?)とパラガ(パラダイス・ガラージ)の子供なんだとも実感しますね(笑)

──こうしてアルバム全体をたどってみると、グッとくるストレートに聴かせる曲がいままで以上に多いアルバムですよ。

澤部 そうですね。こうやって『トワイライト』というアルバムができたことは、自分でも「まだ捨てたもんじゃないな」って思います。ミックスも葛西(敏彦)さんと僕でかなり頑張りました。「グッと前に出る感じの音にしよう」って葛西さんも話してくれて。これまでのスカートの「録り音重視」はそのままに、そこからまた一歩も二歩も踏み込んだ音になったなと思います。

──『20/20』でメジャーという舞台に飛び立たせてもらって、もっとにぎやかに攻める方向もあったはずですけど、『トワイライト』はいまという瞬間の揺らぎを大切に長持ちさせるアルバムなんだと思えます。

澤部 「スルメ盤」という言い方になりますかね(笑)

──いいじゃないですか、スルメ盤。ジャケがモノクロなのもいいと思うんです。これをスカートのファンはこれを手垢で汚すくらい愛することが許される。澤部くんだって、愛する漫画の単行本はそうなってるでしょ?

澤部 そう、小口がだんだん変色してくるんですよ。そういう感じもあっていいなと思います。

──これからスカートがずっと音楽をやっていくうえで、何年経っても「これは本当に大事な作品だ」って言われる気がします。

澤部 そうですね。でも、いまの心配はそこでもあるんです。すごくいいアルバムができたから、みなさんにいまいっぱい聴いてもらいたい。「死後に評価された」のでは悲しすぎる(笑)